1. はじめに 皆さん、こんにちは。杉並区長の岸本聡子です。 今日は、杉並区の「都市計画道路事業」について、私の考えを、 自分の言葉でしっかりお伝えしたくて、この動画を撮っています。 はじめに、私の立場をはっきりお伝えします。 「優先整備路線」に選定したからといって、すぐに事業着手をする考えはありません。 そして、高円寺北口についても再開発を進める立場にも立ちません。 杉並区としては、必要な情報をできる限り分かりやすく示し、 区民の皆さんと対話を重ねながら、これからのまちのあり方を一緒に考えていきます。 2. 新しい整備方針と杉並区の優先整備路線 本日、東京都が「東京における都市計画道路の整備方針(案)」を公表しました。 その中で、杉並区内の事業に着手していない都市計画道路のうち、区の事業となる2路線、 西荻窪の補助132号線と高円寺の補助227号線を「優先整備路線」に選定しています。 杉並区では、昨年度、区内の未着手の都市計画道路について、独自の指標で整備効果を検証しました。 補助132号線と補助227号線は、整備効果だけを見れば、 東京都と都内51の自治体で構成する策定検討会議で示された指標に基づいて抽出したものとほぼ同様に必要性の優先順位が高い結果でした。 しかし、道路は“効果”だけでは決められません。 地域の合意形成、影響、代替策、進め方の納得――その全部がそろって初めて前に進められるものです。 現在の計画では4つの路線を優先整備路線としていますが、その内、西荻窪の補助132号線の北側と、高円寺の補助221号線は既に事業着手しています。 それ以外の未着手路線は、補助132号線の南側と高円寺の補助227号線、そして久我山の補助216号線の3路線です。 補助216号線については、これまで検討を進めてきた結果、 地形的な理由から現計画のままでは実現性が極めて低いことがわかったため、今回の優先整備路線の選定からは外しました。 このことから2路線、補助132号線の南側と補助227号線を引き続き優先整備路線としたものです。 ここで大事な点を、改めてお伝えします。 区では、これまでにオープンハウスなどで、直接区民の皆さんからご意見をいただくとともに、 区の付属機関である都市計画審議会にも報告して有識者を含む委員の皆さんからもご意見を伺ってきました。 いただいた意見には様々なものがありますが、意見の隔たりも大きく、 計画から何十年も事業化されていない都市計画道路を、いま私が急に動かす考えはありません。 3. 都市計画道路って何? 「都市計画道路」とは、都市の将来の発展や交通の円滑化を目的として、 都市計画法に基づいてあらかじめ位置や幅を決めておく道路のことです。 杉並区内では、青梅街道や五日市街道、井の頭通り、中杉通りなどの幹線道路がそうです。 東京都と杉並区を含む都内51の自治体は、連携して概ね10年ごとに整備方針を立てて、この都市計画道路事業を進めています。 今、その5回目となる「新たな整備方針」を作っているところです。 都市計画道路は、多様な機能を有する都市を形成する最も基本的なインフラであり、防災上の観点から極めて重要な都市基盤です。 都市基盤は、道路だけではなく、人々のコミュニケーションを円滑にする通信や公衆衛生を守る上下水道なども含まれ、都市の発展には不可欠です。 一方で、新しい道路の計画は、商い、住まい、景観や街並みなど、地域が長い時間をかけて育ててきたものにも大きな影響を与えます。 だからこそ、「必要性」だけでなく、「影響」も含めて、納得できる情報と議論の場が欠かせないと私は考えています。 4. 2つの優先整備路線とその選定理由・現状の課題 西荻窪の補助132号線は、現在、青梅街道から神明通りまでの約1キロが「優先整備路線」となっていて、 約半分の北側は、私が区長に就任する前、令和2年4月に既に事業着手していて、まちの中では賛成・反対の意見があり、そのまま事業を進めていく状況ではありませんでした。 そのため、一旦立ち止まり、改めて地域の方々と対話を始めたところです。 この補助132号線は、区内における脆弱な南北方向の交通機能の強化や、 歩行者と自転車が錯綜していて、危険で、道幅が狭く、段差の多い歩道を改良することで、JR西荻窪駅へのアクセス性の向上に寄与する路線です。 また、延焼遮断帯として指定されていることや、桃井原っぱ公園や井草八幡宮一帯といった広域避難所等へのアクセス路線として、 地域の防災上重要な機能を果たす路線でもあります。 沿道では、既に事業に協力して建物を後退している方や土地を区に譲っていただいた方々もいる状況です。 一方、西荻の商店街や街並み、コミュニティ等を大切に思う住民からの意見も寄せられています。 現在、(仮称)デザイン会議では、住民と行政とが対話をしながら、まちの課題や将来像を議論しており、 住民主体による、まちの魅力を維持するための具体的な活動も始まろうとしています。今回、それらの状況を踏まえ、 南側の区間を引き続き「優先整備路線」に選定しました。 次に、高円寺の補助227号線です。 JR高円寺駅周辺は、戦後の復興のための区画整理が駅南口と北口の一部で行われましたが、 北口の多くは区画整理がされないまま住宅が密集し、防災上とても危険な地域となっています。 特に、高円寺北三丁目は、木造住宅が密集している上に、地域には道幅の広い道路が無く、区内で最も火災危険度や総合危険度が高くなっています。 先月大分で発生した大規模火災は住宅密集地で延焼し、発生から17日後に鎮火が発表されたことを鑑みても、住宅密集地域の防災対策は急務です。 これまで行ってきた不燃化等の取組は一定程度進んでいますが、火災危険度などは依然として最高危険度であり、 延焼遮断帯や消防活動に寄与する道路整備の効果は否定できません。 補助227号線は、もともとは東京都が行う事業として計画が進んでいました。 東京都は再開発事業としてこの補助227号線の整備を行おうとしていましたが、地域で大きな混乱があり、都は、区が主体となってまずは地域の合意形成してほしいということで、 平成16年の第三次事業化計画で区が行う優先整備路線に位置づけられた経緯があります。 ところが高円寺地域では、再開発問題の賛成・反対の意見の対立によって、 地域での合意形成を進めるにはあまりにも困難を極め、私は、このように地域の問題が全く前に進んでいない状況に危機感を持っています。 今回の「新たな整備方針(案)」では、補助227号線を優先整備路線に選定していますが、私は、補助227号線について、今のままで事業着手することは全く考えていませんし、 高円寺北口の再開発を進める立場には立ちません。私は、この「話し合いの土台そのものが不足している状況」を、まず変えなければならないと考えています。 だからこそ、道路整備ありきではなく防災上の課題を解決するために地域住民と議論し、地域の安全性を高めるためにも、 対話により今できる「防災まちづくり」に取り組む必要があると考えています。 杉並区には様々な特色の地域があります。特に高円寺では、多くの人たちが今の高円寺を大切にし、大切に思う人の熱量があります。 高円寺に暮らす方、働く方や訪れる方など、高円寺に愛着のある様々な方から、 補助227号線が優先整備路線となることが再開発の推進に繋がるのではと懸念している声があり、区にも署名が届きました。 また、これまでも再開発反対デモも開催されています。 そこにはみんなが守りたいものがあることを、私たちは今までの仕事の中で身に染みてよくわかっています。 高円寺の街が、多くの人に愛されているということは地域のかけがえのない強みです。 5. 私の基本姿勢 私は、3年前の区長選の時、「大規模道路拡幅計画など、住民の合意が得られていないものは一旦停止して見直す」とお約束しました。 地域の皆さんとしっかり話し合いながら、「対話を大切にしたまちづくり」を進めることが一番大切だと考えたからです。 区長になってからも、この考えは変わっていません。 そのため私は、区長になってからすぐ、事業を開始していた都市計画道路についても一旦立ち止まり、地権者や商店街の人たち、 小学生から高齢者まで幅広い声を、対話を通じて直接お聞きしてきました。 そこでわかったのは、これまで十分に対話をしてこなかったということ。 そして、対話に必要な情報が不足しているということです。 今、検討が進んでいる都市計画道路の「新たな整備方針」の策定プロセスにおいても、 東京都は、専門家意見など検討段階の情報を、地方議会を始め、地域社会の住民に詳細な内容を示さないまま、7月に「新たな整備方針」の中間のまとめを発表し、 そして、本日、12月19日に、「新たな整備方針(案)」が発表されました。 中間のまとめからの期間も短く、どのような議論がされたのかも区民には示されません。 しかもこれから年度末まで3か月という短期間で決まっていきます。このような進め方では、議会や地域社会で議論することは出来ず、私はそこに大きな問題があると考えています。 本来、行政は、住民に必要な、正確な情報を提供し、それを前提に行政と住民が、また住民同士が議論していくべきです。 必要な情報が示されないままに、いつの間にか私たちの未来が決まってしまうというこのやり方自体が、行政への不信感に繋がっていると思っています。 6. 私たちの目指す方向 私は、道路整備だけに頼らない「まちづくり」を進めたいと考えています。 西荻窪では、すでに(仮称)デザイン会議で、住民と行政とが対話をしながら、事業着手した区間のありようを議論し、 まちの魅力を維持するための具体的な取組を始めようとしています。今回、「優先整備路線」に選定した南側のことは、 引き続き「対話によるまちづくり」の議論を進めていく考えです。 そして高円寺でも、事業着手した補助221号線を中心に(仮称)デザイン会議で対話が始まったところです。 今後はさらに、町会や商店会をはじめ、まちに関わる方々とも対話を広げていくことを考えています。 そこで大事にしたいのは、目的は「道路を作ること」ではないということです。 不燃化、避難路確保、消防活動の支援など、いま実行できる手立てを組み合わせ、具体的な提案や仕組みを示しながら議論を進めます。 どうしたら地域の防災性を向上させ、高円寺の魅力を残していけるのか、地域住民が「まちづくり」の当事者として議論ができる環境をつくることに力を尽くします。 7. 最後に伝えたい事 都市計画道路の議論は、単なる賛成・反対の二択ではありません。 大切なのは、十分な説明と資料があり、住民が判断できる材料がそろった上で、地域として議論し、合意形成を目指していくことです。 杉並区には、『自治基本条例』があり、区内に住み、働き、学ぶすべての人々が、地域のことを自ら考え、行動し、豊かで活力ある住みよいまち杉並を、共に力を合わせて作っていくための大切な仕組みです。 地域のことは、そこに住む人が一番よく知っています。 「地域のことを、地域の人が自分たちで考え、決め、行動する」、私がやりたいことは、正に「住民自治の実現」です。 そのためにいくつものチャンネルを作り、対話し、議論を続ける必要があると思って取り組んでいます。 都市計画道路事業を通じて区民の皆さんと一緒に「住民自治の実現」に取り組んでいきたいと思っています。 東京都では、新たな「整備方針(案)」に関するパブリックコメントを来年1月30日まで行っていて、 皆さんのご意見やご提案を募っています。区では、多くの区民の皆さんにこの案について知ってもらい、 ぜひ自分事として考えていただき、広くご意見をいただくために、東京都が開催する新宿と立川の2か所でのオープンハウスとは別に、区内7地域でオープンハウスを開きます。 そこではただパネルを展示するだけではなく、説明と質疑の時間も設け、職員が直接意見を聞き、可能な限り質問にお答えします。 ぜひ率直な声をお寄せください。