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すぎなみビト ひきこもり家族会 飯田 恵美子
気持ちを解放し合う居場所があります。
「ひきこもり」とされる人が全国推計146万人に上る今、その支援の強化が社会全体に求められています。区内には、ひきこもり状態の子どもを持つ親同士の交流の場を提供する「フリーランス杉並家族会」があります。今回は、その代表を務める飯田恵美子さんに、家族会の意義や支援の大切さなどを伺いました。
目次
ひきこもりを正しく知ってもらうことが、地域共生社会への第一歩になる
プロフィール:飯田 恵美子(いいだ・えみこ)
昭和37年生まれ。杉並区在住。息子が高校時代の不登校を経てひきこもり状態になったことをきっかけに、ひきこもり支援に興味を持つ。
平成31年よりフリーランス杉並家族会に参加し共同代表となり、令和4年より代表を務める。
他団体でもひきこもり電話相談員やピアサポーターを担うなど、ひきこもり支援に関する活動を積極的に行っている。
甘え、怠け…そんな無理解が当事者や家族を苦しめる
正しい理解促進のために、ひきこもりとは何かを教えてください。
一定期間にわたって、対人関係や社会参加に著しい困難を抱えて、家庭・自宅にとどまっている状態のこと。病気や障害の名前ではなく、さまざまな要因から生じるものです。いつでも誰でも、どんな世代でもなり得る状態であり、決して本人の甘えや怠けではありません。
どのようなきっかけでひきこもりになるケースが多いのですか?
いじめ・不登校・人間関係の挫折など、ひきこもりにつながったきっかけは人それぞれ異なりますが、いずれにしても、傷ついた経験・生きづらさの積み重ねによって心身ともに疲労し、エネルギーが枯渇してしまい、動けなくなってしまうというもの。ひきこもりの期間というのは生きるためのエネルギーを充電している期間であり、命を守るための生存手段でもあって、いちばん苦しいのは本人なのです。
孤立しがちな親を支える「ひきこもり家族会」
ひきこもり家族会というのは、どのような会ですか?
ひきこもりの子どもを持つ親同士が交流する場所であると同時に、ひきこもり当事者が集う場でもあります。交流を通して、家族が元気になっていくために社会的に必要なものの一つだと、私は捉えています。
飯田さんが家族会に参加するようになったきっかけを教えてください。
18歳でひきこもりになった息子に対してどう接していいのか分からず、糸口が欲しくて巣鴨にある家族会に参加しました。とてもよい会だったのですが、距離的に通い続けるのが難しく、一度は継続的な参加を諦めました。そんな中、同会の地域家族会として杉並にフリーランス杉並家族会が立ち上がったことで、定期的に通うようになりました。
共同代表として積極的に活動し始めたのはどんな思いからですか?
参加当初、代表の方がとても忙しそうに奔走しているのを見て、何か私にできることがあればと声をかけたのが、共同代表として活動するようになったきっかけです。そこにはもちろん、息子の支援者でありたいという思いも強くありました。とはいえ、私自身もひきこもりの子どもを持つ親の一人。参加者の皆さんを支援する立場だとはあまり思っていなくて、あくまで「同じ経験を持つ仲間」という感覚です。ただ、ひきこもり電話相談員・ひきこもりピアサポーターなどの養成講座で学んだ知識もありましたので、そういったことも含めてお伝えして、共有できたらと思いました。
フリーランス杉並家族会ではどのような活動が行われていますか?
主な活動の一つは、ひきこもりに関する専門家に登壇いただく講演会です。さまざまな角度から情報をお伝えできるように、登壇者のコーディネートに力を入れています。皆さん熱心に話を聞いてくださり、講演後の質疑応答も含めると数時間があっという間に終わってしまう。あるとき参加した方から「親同士で話す時間も欲しい」と声が上がり、4年12月より懇談会もスタートしました。
懇談会は皆さんにとってどんな場になっているのでしょうか?
毎月開催している懇談会は、親同士がフリートークを通して悩みや辛さを吐き出す大切な機会になっています。今となっては「なくてはならない場」と言っても過言ではありません。というのも、ひきこもりの子どもを持つ親は、家の中では子どもの気持ちや辛さを受け止める立場にあり、自分のことを吐き出せる場がないんです。同じ経験をしていないと分かり合えないことも多く、なかなか周囲の友人に話すこともできません。だから家族会の懇談会は、否定されることなく、親自身が気持ちを解放できる唯一の場とも言えます。
気持ちを解放することでどんな効果がありますか?
親が気持ちを吐き出し、同じ悩みを持つ人もいるんだと知って少しでも元気になれると、子どもの環境を整える一助にもなります。子どもは親の姿をよく見ているもので、自分のことで悩んで苦しそうにしていることを察すると「自分が悪いんだ」と責めて余計に閉じこもっていってしまう。そんな悪循環を生まないためにも、親が気持ちを少しでも軽くすることはとても大切なことだと思います。また、フリートークだけで終わらず、有益な情報をできるだけ持ち帰ってもらうことも心掛けています。
これまでの活動の中で特に印象深い出来事、手応えを感じた瞬間などをぜひ教えてください。
初めて会に参加する夫婦が懇談会の部屋に入ってきたとき、二人とも下を向きとても険しい表情をしていました。自身の体験を語るときも非常に緊張した面持ちでしたが、ふと誰かが「うちでもそういうことあるよ」と言うと、安心したのか、その瞬間から表情がほぐれ、最後は笑顔で帰って行きました。それは忘れ難い出来事です。また、懇談会の際には必ず参加者にアンケートを書いてもらい、困っていること・求める支援などを聞いて区と共有するようにしてきました。そういった一人一人の声が行政の支援拡充につながるきっかけの一つになったことは、大きな手応えであると同時に活動の原動力にもなっています。
自分の思いを抱え込まず、話してほしい
理解への第一歩としてどんなことが大切だと考えますか?
ひきこもりを理解して受け入れるまでには、たとえ家族であってもとても時間がかかります。だからこそ、社会の中で理解を得ることが簡単でないのも事実です。誰しもなり得る可能性があること。本人が望んでそうなったのではなく、ならざるを得なくなってしまったのだということを、まずは知ってほしいです。知ってもらうことが、地域共生社会への第一歩になると思っています。そして、ひきこもりというのは、広く考えれば孤立・孤独の問題にもつながっています。だからこそ、優しい社会であることを願うし、社会全体で考えていくことが必要ではないかと思います。
家族会への参加にハードルを感じる方にはどんな声をかけたいですか?
誰かの前で自分の体験を話すのは、勇気がいることかもしれませんが、皆さんの経験を聞きながら「うちだけではないんだ」と思うだけでも、きっと気持ちが少しだけ楽になります。そうすると、子どもへの接し方が変わっていくことも多いです。家族会に参加して気持ちを解放し、生きた知識を得ることは、ひきこもりを長期化させないための一つの近道でもあると私は思っています。フリーランス杉並家族会は行政と連携した安心・安全な居場所なので、ぜひ安心していらっしゃってください。
今、子どものひきこもりに悩む親御さんへ伝えたいことは?
私自身の経験から一つ言えるとしたら「親自身が自分の人生を楽しんで」ということ。親が何かを楽しんだり、元気に活動したりしている姿を見ることで、子ども自身が「自分も生きていていいんだ」と思えるようになることも多い。私もそうでしたが、子ども以外の関心ごとを持つと、親自身の考え方や捉え方も良い方向へ変わっていったりするものです。私たちの家族会は、「生き方はいろいろあってもいいじゃないか」という思いからフリーランスと名付けられました。子どもの多様な生き方に寄り添い、理解するまでには何年もかかるかもしれない。だからこそ、ゆっくりとまず一歩、家族会へ足を運んでもらえたら嬉しいです。
ひきこもり相談窓口「ゆるりと杉並」を開設しました
「ゆるりと杉並」では、ひきこもり状態にある方が、自分らしく生きることや、それを見守る家族が孤立することがないよう、一人一人の状態に寄り添った支援を行っています。
詳細は、ゆるりと杉並ホームページをご覧ください。
問い合わせは、ひきこもり相談窓口03-6903-6004へ。
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日時 | 月~金曜日 正午~午後8時(祝日・年末年始を除く) |
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「いきなり相談するのは…」そんな皆さんが、当事者同士で話し合ったり、参加者自身のペースで過ごしたりできる居場所です。
日時 | 第2土曜日・第3木曜日、午後2時~4時 |
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場所 | ウェルファーム杉並(杉並区天沼3-19-16) |
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