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すぎなみビト 園芸家 野田一郎
花と緑にあふれるまちを思い、育てる。
区内の農家で、花・草木の栽培を行う野田一郎さん。日本でなじみのないときから父と共に「クリスマスローズ」の栽培・品種改良に取り組んできました。住宅街に隣接した畑で、地域に根差しながら農業に携わっている野田さんに、花を育てる楽しさ・都市で行う農業への思いを伺いました。
目次
育てた苗木がまちを彩り、花と緑を増やすことに貢献できたと思うと嬉しいです

プロフィール:野田一郎(のだ・いちろう)
昭和34年杉並区生まれ。代々続く農家に生まれ、東京農業大学で学び、ニュージーランドでの農業研修などを経て25歳で実家の野田園芸に就農。日本におけるクリスマスローズ生産の先駆者である父と共に、栽培・品種改良をはじめ、普及にも尽力してきた。現在、クリスマスローズをメインに、花卉類・オリーブ・ブルーベリーなどの栽培も手がける。平成23年度から井草園芸研究会会長。令和7年度から日本クリスマスローズ協会理事。杉並区農業委員も務める。
雪国暮らしで緑の安心感に気づき、家業である農業の道へ
野田さんの家は杉並の地で代々続く農家とお聞きしています。
今は野田園芸として農業をしていますが、祖父の代までは野菜を作っていました。すぐそばの青梅街道沿い、今はスーパーになっている場所が昔は野菜の市場だったので、作った野菜をリヤカーに乗せてそこへ持っていき売っていたようです。
野菜から花卉の栽培へと転換したのはいつだったのですか?
昭和30年ごろ、父の代です。菊の切り花から始めて、その後は花木類も栽培するようになり、30年ほど前から現在のメイン作物であるクリスマスローズの生産に取り組み始めました。当時からクリスマスローズ自体は日本にもありましたが、品種が限られていて色は地味なピンク一色のみ。花は下を向いて咲くし、お世辞にも華やかとは言えない花だったので、ほとんど知られていませんでした。
一方、クリスマスローズの本場であるイギリスでは品種改良が進んでいて、鮮やかな色や八重咲きの品種など種類が豊富。父と他の園芸農家さん3人がクリスマスローズ協会を立ち上げ、イギリスの品種を参考に、日本でも本格的に栽培を開始しました。

野田さんご自身は子どもの頃から家業を継ごうと決めていたのですか?
子どもの頃は「自分も農業をやるぞ」という気持ちは特にありませんでした。心境が変わったのは高校生のときかな。山形県の高校に進学し寮生活を送っていて、冬は雪がすごく積もるところなので緑がほとんどなく、白一色の世界。そのような地域に住んでいたので、杉並に帰省する道中でだんだんと緑が見えてくると、なんだか嬉しいしホッとするなと感じて、それなら緑に携わる仕事をしてみようかなという気持ちになったんです。
大学は東京農業大学へ進み、卒業後は関西の植木・盆栽卸売会社、ニュージーランドでの農業研修を経て、地元へ戻り就農しました。それから40年ほど経ち今に至ります。就農後は父と二人三脚で、クリスマスローズの栽培と品種改良、販売や認知度の向上に取り組んできました。
日本のクリスマスローズ生産のパイオニア農家として
クリスマスローズの品種改良は、どのように行われるのですか?
もともと日本で流通している品種はとても少なかったので、しばらくは毎年のようにヨーロッパへ出張し、いろいろなクリスマスローズを買い付けてきました。そこから、例えば大きい花を作りたい、こんな色の花にしたい、できるだけ上を向くように咲かせたい、一つ一つの花は小さくてもたくさん花が咲く株にしたい…など、どんなクリスマスローズを目指すのか考えながら、品種の違う花を交配させていきます。交配した花の種が熟したら丁寧に採種し、それを育てて花を咲かせたところで交配の結果、つまり思い描いたような花が咲くかどうかが分かります。



野田さんの育てるクリスマスローズ
クリスマスローズの栽培で難しいのはどのようなところでしょうか?
昨今で言えば、やはり気候の問題は大きいです。とにかく暑さが苦手、寒さが必要なクリスマスローズは温暖化する気候に対応した育て方が求められます。そこで実施しているのが、高冷地に株を移動させて寒さに当てるという作業。杉並に置いておくと暑さで枯れてしまう品種は、一度高冷地へ持っていきます。
私たちが活用しているのは、山梨県忍野村の標高1,000m弱の高冷地。毎年10月中旬ごろになると忍野村の最低気温を毎日確認するのが日課になり、いつ杉並に持って帰ってこようかとタイミングを見計らっています。一度寒さに当てたクリスマスローズは、開花が早まり1・2月にはさまざまな品種が満開を迎えます。
野田園芸さんが品種改良を手掛けた中で特徴的な品種はどんな花ですか?
いろいろな品種を作りましたが、バリエーションを豊富に増やしてきたゴールド系と呼ばれる鮮やかな黄色の花を咲かせる系統のクリスマスローズは、私たちが手がける花の特徴の一つと言えるかもしれません。
花をより美しく育てるために大切なことは何ですか?
いかに丁寧に育てるか、に尽きるのではないでしょうか。よく観察し、植物の声をよく聞くこと。例えば、葉が少しだけ虫に食べられたりしていてもパッと見ただけでは気づけません。葉の色・大きさ、茎の伸び方などをしっかりと確認し、光・肥料・水が足りているのかも含めて日々丁寧に向き合う。その中で何か気づいたらすぐに対処する。その繰り返しが美しい花を咲かせることにつながると思います。
株分けして育てるのではなく種から育てるクリスマスローズは、人間と同じように二つとして同じ顔にはならないのが面白いところ。ぜひたくさんの方に知ってもらい、身近な所で親しまれる花になってほしいと願っています。

杉並の地で、農業に携わることへの思い
区内では農家が減少傾向にあり、都市化の中で農業を継続する難しさなどありますか?
都市農業においては住宅街に隣接して畑がありますので、薬品をまくときに通行人がいないかどうか注意しながら行うなど、やはり配慮が必要な面はあります。堆肥を入れたときはどうしてもにおいがあるので、仕方ないとはいえ周囲の方々への影響は気にはなりますし、うちは花なのでそうでもないのですが、野菜を作っている農家は土埃にも気を使っていると聞きます。配慮すべきところは気をつけながら、地域の皆さんに都市農業の重要性などを伝えていけるといいですね。
毎年、区内の中学生が職業体験として農家の仕事を体験する機会もあります。そういった取り組みを通して、農業の魅力を子どもたちにも伝えていければと考えています。
数字でみる杉並区の農業
区内の農業では、野菜・果樹のほか、植木・切り花なども多く栽培され、農地面積は農地のある特別区11区の中で5番目の広さです。

東京都産業労働局農林水産部「東京都農作物状況調査結果報告書(令和5年度)」
長く農業に携わり、改めてその良さとはどんなところだと感じますか?
日々植物を相手にする仕事ですから、私自身はストレスの少ない仕事だなと感じています。自分で種をまき、大切に育て、そして花が咲くというのは今でもとても嬉しいもので、そういったシンプルな喜びをじかに感じられるのは、農業ならではの良さと言えるのではないでしょうか。
まちの人々との距離も近い都市農業。地域とどのような関わりを持ち、どのような活動をされていますか?
区からの委託として、農業者の仲間たちと年6,000本ほどの苗木を供給しています。その中で野田園芸のクリスマスローズも年300本ほど納めていて、そうした苗木はイベントを通して区民の皆さんの手に届けられたり、公共施設の花壇に植えられたりしています。そのほか、近所の学校や、新しい公園ができるときなどに苗木を寄付する機会もあります。
誰かの手に届いた苗木がまちで植えられていると思うと、花と緑を増やすことに貢献できているのかなと、それもまた嬉しい気持ちになるものです。
ふれあい農業すぎなみ 農産物直販マップ
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ふれあい農業すぎなみ 農産物直販マップでは、区の生産者や新鮮採れたて野菜を購入できる場所を紹介しています。産業振興センター(杉並区上荻1-2-1 Daiwa荻窪タワー2階)、区役所1階、区民事務所、地域区民センター、図書館などで配布しています。
「農産物直販マップ」のページからもご覧いただけます。
- 問い合わせ:産業振興センター都市農業係(電話:03-5347-9136)

すぎなみビト MOVIE
「園芸家 野田一郎さん」【令和7年12月15日】すぎなみビトMOVIE
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