文化財保護の手引き
文化財とは
「文化財」という言葉は、第二次大戦後、現在の文化財保護法の立案過程で生まれたものといわれています。同法は戦前の国宝保存法、重要美術品等の保存に関する法律、史蹟名勝天然記念物保存法の三法を統一的にまとめた新しい法律で、この統一過程の中で「文化財」という名称が生まれたものです。
『広辞苑』によれば、文化財とは、「文化活動の客観的所産としての諸事象または諸事物」と解されていますが、文化財保護法は、これら広義の文化財を具体的に例示列挙したうえで、そのうち歴史上、学術上または芸術上価値が高いもの、あるいはわが国民の生活の推移の理解のために必要なものを文化財と定義しています。当区の文化財保護条例(以下「条例」という。)においても、これに歩調を合わせ同様に文化財を定義しています。
条例で定める文化財の種類は次のとおりです。
文化財の種類
有形文化財
- 建造物
- 美術工芸品
絵画、彫刻、典籍など - 歴史関係資料
古文書、歴史資料、考古資料など
無形文化財
- 芸能
- 工芸技術
無形民俗文化財
衣食住、年中行事等に関する風俗習慣、民俗芸能など
有形民俗文化財
無形民俗文化財に用いられる衣服、器具など
記念物
- 史跡
貝塚、古墳、旧宅など - 名勝
庭園、橋梁 - 天然記念物
動物、植物、地質鉱物など
条例による文化財保護の基本的なしくみ
一般的に、条例による文化財の保護は、国が重要文化財等に指定したもの以外の文化財で、地方自治体にとって重要なものを、所有者等の同意を得て当該自治体の「指定」文化財に指定することによって行われます。そしてこの指定は通常次のような効力を発生させます。一つは、指定された文化財は、たとえそれが一私人の所有あるいは保有にかかるものであっても、当該自治体にとって重要なものであるとの認定を受けたことになり、以後公共的な性格を帯びたものになるということです。二つには、その当然の帰結として、その文化財の保護について、公共的見地から規制措置をとること、あるいは公的な財政援助を行うことが可能となることです。
当区の条例もおおむねこのような考えにのっとって策定されています。次に当区の条例による文化財保護の体系を少し詳しく説明します。
文化財の指定登録
文化財の指定(解除)
指定文化財の種類
教育委員会は、後で説明する登録文化財の中から区にとって重要と思われるものを「区指定文化財」に指定します。区指定文化財は、前述した文化財の種類に対応して次に掲げる七種類あります。
- 区指定有形文化財
- 区指定無形文化財
- 区指定有形民俗文化財
- 区指定無形民俗文化財
- 区指定史跡
- 区指定名勝 区指定記念物と総称する。
- 区指定天然記念物
文化財の指定の方法および手続
区指定無形文化財および区指定無形民俗文化財以外の文化財(以下「区指定有形文化財等」という。)の指定に際しては必ず所有者等の同意を得ることが必要となっています。これは条例上、区指定有形文化財等が種々の規制を受けることに鑑み憲法上保障されている所有者等の財産権との調整のために設けられた規定です。
次に、区指定無形文化財の指定に際しては、必ず、その無形文化財を体現できる技能やわざを保持する人や団体を認定することになっていますが、無形文化財の場合は条例上保持者等に何ら不利益を及ぼすおそれはないので、認定に際して保持者などの同意を必要としていません。
区指定無形民俗文化財の場合には、技能やわざを有する人や団体が特定できない場合もあることを想定して、とくに保持者等の認定を必要としていません。
これらの区指定文化財あるいは認定を受けた保持者等も、区指定文化財としての価値を失した場合や保持者が心身の故障のため保持者として適当でなくなったと認められる場合には、教育委員会は指定や認定を解除することができます。
教育委員会は、文化財の指定および保持者等の認定並びにこれらの解除については、あらかじめ文化財保護審議会(以下「審議会」という。)に諮問し、その答申を受けて行うことになっています。教育委員会は審議会の答申を尊重するよう義務づけられています。
区指定文化財に指定されると
文化財保護の奨励
区指定有形文化財等の所有者や区指定無形文化財の保持者・保持団体、または区指定無形民俗文化財の保存に当っている人々には、文化財を保存活用するうえで一定の義務を課せられます。すなわち、文化財の管理や公開等について教育委員会がいろいろ協力を願うことがあるので、そうした場合には教育委員会が必要と認めたものについて、毎年度予算の範囲内で一定の奨励金が交付されます。
文化財の管理や修理
区の指定文化財に指定されたからといっても、基本的には当該文化財を日常的に維持管理する責任者は個人や団体の所有者等であることにかわりありません。しかし、前述したとおり指定を受けた文化財は公共的財産であるとの認定を受けたことにもなるので、条例では、その管理が適当でないときには、教育委員会は管理方法等について必要な措置をとるよう勧告することができます。またこれらの文化財がき損していて保存上問題のあるときはその修理を勧告することもできます。
区指定無形文化財の保持者や保持団体あるいは区指定無形民俗文化財の保存に当っているものに対しても、教育委員会は保存に必要な助言や勧告をすることができます。
このような場合、管理や修理あるいは無形文化財等の保存に関し多額の費用を要し、所有者等が負担に堪えないとき、区は経費の一部に充てさせるために予算の範囲内で補助金を交付することができます。
また、区指定文化財の所有者等は文化財の修理や所在、所有者の変更等一定の事項については教育委員会に届け出ることが義務づけられています。
現状変更の制限
区指定有形文化財や区指定記念物に所有者は文化財の現状を変更したり、保存に影響を及ぼす行為をしようとする場合には、教育委員会の許可を受けなければなりません。区指定有形文化財や区指定記念物がその現状のまま後世に引き継がれていくことが条例の目的でもあるので当然のことといえます。
教育委員会は、現状変更の許可を与えるに際して、保護のうえから必要があると認めるときは一定の条件を付すことができます。許可の条件に従わなかったときは、許可の取消しやそれらの行為の停止を命ずることができます。
現状変更の許可を受けられなかったり、許可の条件を付されたことにより損失を受けた者は、区に対しその「通常生ずべき損失」の補償を請求することができます。
罰則
区指定有形文化財や区指定記念物については、その保護の実効性を高めるため罰則規定が設けられています。
これらの文化財を損壊、隠匿、あるいは保存に影響を及ぼす等の 行為をした者には、五万円以下の罰金等が課せられます。
また教育委員会の許可を受けずに、あるいは許可の条件に従わないで現状変更するなどした者には三万円以下の罰金等が課せられます。
文化財の登録
当区の条例は、先にも述べたとおり区指定文化財を指定することによって文化財の保護を図っていくことをその中核としていますが、このほかに文化財の登録制度を盛り込むことによって、さらに充実した文化財保護を行おうとしています。
文化財の登録制度は、従来の文化財保護の考え方がややもすると美的、学術的観点に偏りがちで、芸術上、学術上価値の高いもののみを重点的に保護しようとするものであったことに対する反省から生まれています。とくに区レベルの郷土の歴史や文化を理解するために不可欠な文化財は、必ずしも芸術上、学術上価値が高いとはかぎらず、従来の考え方では指定の範囲外におかれ、忘れ去られる危険性が大きいからです。登録制度は、このような弱点を克服し文化財をできるだけ広範囲にとらえ、それらを台帳に登録することによってよりきめこまかな保護を図ろうとするものです。
登録文化財の種類や文化財の登録(解除)のための方法や手続き、あるいは文化財の保存や公開に関する教育委員会の助言や勧告等については指定文化財のそれとほとんど異なることはありませんが、規制は最小限にし、区民の理解と協力のもとに最大限保存と活用を図っていこうとしています。
なお、登録文化財は奨励金の交付のみで補助金の交付はありません。
文化財保護審議会
条例は、「教育委員会の諮問に応じて、文化財の保存および活用に関する重要事項を調査審議し、並びにこれらの事項について教育委員会に建議する」機関として文化財保護審議会(以下「審議会」という。)の設置を定めています。文化財保護行政は、歴史や文化あるいは文化財について高度の専門的知識が要求され、とくに文化財の登録や指定については、専門家の学識や眼識が不可欠なことから設けられた規定です。
審議会は、歴史、民俗、考古、建築、美術工芸などの各分野を専門に研究する大学教授またはこれに準ずる研究者等のいわゆる学識経験者を中心に構成されています。
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